「側方衝突警報装置」義務化の背景
大型車両は内輪差が大きく、運転席の反対側は死角となるエリアが大きいため、自転車等を巻き込むリスクが高いことはこれまでも問題視されており、国土交通省の調べでは、左折時に自転車を巻き込んだ死亡事故が08~17年に149件発生し、うち9割は大型トラックによるものという結果も報告されています。
このような状況下の中、交差点で多く発生する死亡事故への対策として大型車の新型車はすでに2022年5月から、継続生産車は2024年5月から、車両重量8トンを超える貨物自動車が左折時に自転車と衝突するおそれがある場合に運転者に警報する側方衝突警報装置の装着が義務化されることが決まりました。
側方衝突警報装置とは、レーダーやカメラで左側方の歩行者、自転車、バイクを検知し、左折により衝突の恐れがあると警報やピラーのランプ点灯を通じてドライバーに知らせる仕組みです。左サイドミラーに映らない死角はトラックの場合、荷台の陰になり直接視認することも難しくなります。内輪差が大きく、死角となる位置を走る自転車と接触するなど、巻き込み事故によるリスクも高いのが現状です。
今回の側方衝突警報装置の大型車両(車両重量8トンを超える貨物自動車)への装着義務は、国連欧州経済委員会自動車基準調和フォーラムにおいて採択された世界的な基準であり、日本はこの基準を導入する形で保安基準が改正※1されています。
国内・海外メーカーの動向
国内メーカーでは、この義務化に適合する車両として、既に三菱ふそうのスーパーグレート(Super Great)では「アクティブ・サイドガード・アシスト」、いすゞ自動車のギガ(GIGA)には「ブラインドスポットモニター」、UDトラックスのクオン(Quon)には「スマートBSIS」が標準装備またはオプション設定されるなど、搭載が進んでいます。これらはレーダー技術を採用し、ドライバーから死角となる領域を監視することでドライバーに注意喚起を促すシステムです。※2
海外メーカーでも、メルセデス・ベンツがアクトロス(Actros)に、助手席側の死角に入った歩行者や自転車の存在をドライバーに警告する「サイドガードアシスト」を導入していますが、2021年6月からは最新の先進運転支援システム(ADAS)の中に、「アクティブサイドガードアシスト」を組み込み、ドライバーに警告するだけでなくドライバーが警告音に反応しない場合、自動ブレーキを作動させることを可能にしています。
取り残される既販車
このように、新車や継続生産車では側方衝突警報装置の標準装備やオプション設定が進められますが、すでに商用に活用され日々運行をしている既販車は、装備の面で取り残されていくことが浮き彫りとなっています。そのため、このたびの義務化にあたりどのような対策をしていけばよいかが課題となっています。
2022年の交通事故の統計分析結果によれば、今回の義務化の目的でもある左折時の死亡・重傷事故は8割以上が対自転車(58件)、その7割以上が大型車(43件)となっていますが、実はドライバーにとって見やすいとされる右折時の死亡・重傷事故も発生しています。こちらは対歩行者の割合が高く、対歩行者(73件)、対自転車(20件)で、大型車による事故の割合は約4割となっています。※3
さらに死亡事故に限ると、左折時は7割以上が対自転車(8件)、その対自転車の9割近くが大型車となっています。また右折時は9割以上が対歩行者(16件)、その対歩行者の6割近くが大型車となっています。※4
大型車の事故対策においては、左折時の巻き込み事故対策が強調されることが多いですが、右折時にも歩行者などを巻き込む可能性について考え、対策することが重要です。
交差点での死亡・重傷事故(対歩行者・対自転車別)
2022年の車籍別・事業用トラックを第1当事者とする死亡・重傷事故の集計結果
公益財団法人 全日本トラック協会『令和4年(2022年)の交通事故統計分析結果【確定版(車籍別)死亡・重傷事故編】』図版より作成
注)一部抜粋の上、イラストを作成しています。(元データの出典:公益財団法人 交通事故総合分析センター)
「後付け」できるモービルアイ・シールドプラス
「モービルアイ・シールドプラス」は、「モービルアイ」をベースに開発された、左折時だけでなく、右折時の巻き込みの防止にも役立つ「後付け可能な」側方衝突警報装置で、側面後方に取り付けられたカメラによって、自転車や歩行者の動きをモニターし、ディスプレイ表示と警報音でドライバーに知らせるシステムです。※5
また、モービルアイ・シールドプラスは、保安基準第2条第2項第4号の告示で定める側面周辺監視装置として大型車でも装着が可能となっています。
既販の大型車両にモービルアイ・シールドプラスの「後付け」を拡大することで、死亡事故が多発する交差点での安全性向上の切り札となることが期待されています。
- ※1 道路運送車両の保安基準のうち「車両総重量8トン超(非牽引自動車を除く。)には、協定規則第151号に規定された要件に適合した側方衝突警報装置を備えなければならないとする」と改訂され、形式指定規則も以下条文が追加された。
・型式指定の対象となる特定装置の種類に、側方衝突警報装置を追加する。
・協定規則第151号に基づき認定された側方衝突警報装置は、型式指定を受けたものとみなすこととする。 - ※2 詳しくは、メーカーサイトをご確認ください。
三菱ふそう:スーパーグレート(Super Great)
いすゞ自動車:ギガ(GIGA)
UDトラックス:クオン(Quon) - ※3 車籍別・事業用トラックを第1当事者とする死亡・重傷事故(公益財団法人 全日本トラック協会『令和4年(2022年)の交通事故統計分析結果【確定版(車籍別)死亡・重傷事故編】』より引用。公益財団法人 交通事故総合分析センターの調査による)
- ※4 車籍別・事業用トラックを第1当事者とする死亡事故(公益財団法人 全日本トラック協会『令和4年(2022年)の交通事故統計分析結果 【 確定版(車籍別) 死亡事故編 】より引用。公益財団法人 交通事故総合分析センターの調査による)
- ※5 車両の構造や車両幅により、シールドプラスが装着できない、または片側にしか装着できない場合があります。